お知らせ
カーボンプライシング
2021/11/10
世界的に脱炭素化への動きが進むなか、注目されているものが、カーボンプライシングです。カーボンプライシングとは何なのでしょうか?
■カーボンプライシングとは?
世界銀行の定義では、『炭素排出に価格をつけることにより、排出削減および低炭素技術への投資を促進すること(“to put a price on carbon pollution as a means of bringing down emissions and drive investment into cleaner options)』とされています。もっと簡単に言うと気候変動問題の主因である炭素に価格を付ける仕組みのことをいいます。この仕組を導入すると、炭素を排出する企業などに排出量見合いの金銭的負担を求めることが可能になります。このようにカーボンプライシングは、地球温暖化対策と脱炭素社会への移行を促す経済的手法とされています。
■カーボンプライシングの具体的な種類は、大きく「明示的カーボンプライシング」と「暗示的カーボンプライシング」に分類されます。詳しく説明すると下記になります。
【明示的カーボンプライシング】
明示的カーボンプライシングとは、炭素排出量に明示的に価格をつけ、排出量に応じた費用負担を課す仕組みです。二酸化炭素排出量の削減に、直接的な影響を与えます。「炭素税」や「排出量取引」があげられ、温室効果ガスの削減に直接的に働きかけることが特徴です。各国が精力的に導入・整備を進めているのは、こちらの明示的カーボンプライシングの方です。
(炭素税とは?)
化石燃料や電気を利用した際、その使用量に応じて課せられる税金のこと。 カーボンプライシングの代表的な制度です。
(排出量取引制度(キャップ・アンド・トレード制度))
排出量取引とは、各企業・国などが温室効果ガスを排出することのできる量を排出枠という形で定め、排出枠を超えて排出をしてしまったところが、排出枠より実際の排出量が少ないところから排出枠を買ってくることを可能にし、それによって削減したとみなすことができるようにする制度です。
【暗示的カーボンプライシング】
暗示的カーボンプライシングとは、消費者や生産者に対して、間接的に温室効果ガス排出の価格を課す仕組みです。温室効果ガス排出削減に直結していないものの、結果的に炭素の削減を促す効果があるとされています。エネルギー消費量に対しての課税(エネルギー課税)や、二酸化炭素排出の規制や基準を遵守するための費用を企業や家庭に暗示的に求める制度などです。「エネルギー諸税」「固定価格買取制度(FIT)」「規制遵守のコスト」「補助金、税制優遇」は暗示的カーボンプライシングとなります。代表的なエネルギーに関係する課税は、「ガゾリン税(揮発油税・地方揮発油税)」「石油石炭税(本則税率部分)」「石油ガス税」「航空機燃料税」「軽油引取税」「電源開発促進税」「温対税(石油石炭税に上乗せして課税される「地球温暖化対策のための税」のこと)」などがあります。
(固定価格買取制度(FIT))
再生エネルギーの普及を目的とした制度。再生可能エネルギー(太陽光、風力、水力、地熱、バイオマス)で発電した電気を、電力会社が一定期間・一定価格で買い取る制度。
地球温暖化への対策やエネルギー源の確保、環境汚染への対処などの一環として、主に再生可能エネルギーの普及拡大と価格低減の目的で用いられています。
(規制遵守のためのコスト)
規制を遵守するために対策コストがかかるもの。「省エネ法(エネルギーの使用の合理化等に関する法律)」「温暖化対策推進法」などが対象になります。
(補助金、税制優遇)
補助や税制優遇をおこない、排出削減への経済的インセンティブを与える措置。「再生エネルギー補助金」が代表的な例。
■カーボンプライシング導入国
「カーボンプライシングの現状と動向 2021年(State & Trends of Carbon Pricing 2021)」という各国の導入動向をまとめたものを世界銀行が発表しました。同報告書によると、2021年4月現在、温室効果ガスの排出を抑制するため、炭素税または排出量取引制度によるカーボンプライシングを導入している国・地域は合計で64に上っっています。内訳は、炭素税が35、排出量取引制度が29となり、過去10年で3倍以上に増加した形となっています。これらのカーボンプライスにより、世界の温室効果ガスの21.5%がカバーされているそうです2021年2月からは中国で、世界最大の排出量取引市場となる炭素税、排出量取引制度の運用が開始されたことで、このカバー率は前年の15.1%から大きく上昇したとのことで2020年のカーボンプライシングによる収入の合計は、前年比17%増の530億ドルという結果でした。このように各国のカーボンニュートラル政策が加速するに従って排出枠取引の需要は増えていくだろうと予測されます。
■日本におけるカーボンプライシングの課題
環境省は、カーボンプライシングをさらに普及させるにあたり、解決すべき課題を出しています。
①産業の国際競争力への悪影響
日本経済団体連合は、国際的にエネルギーコストが高い日本がカーボンプライシングにより人為的にコストをさらに引き上げることは、産業の国際競争力を損なうことになるとの見解を出しています。
出典:(一社)日本経済団体連合会『カーボンプライシングに対する意見』
②世界全体では脱炭素実現が困難
カーボンプライシングを実施しない他国に産業が移り、その結果CO2が増加するため世界全体で見ると脱炭素につながらないのではないか?との問題
日本はカーボンプライシング普及を推進する上でいくつか課題を抱えていますが、導入は進んでいます。
脱炭素へつながるカーボンプライシングを今後の導入を検討している企業も多いことから、ますます注目を集めることが予想されます。