お知らせ
異常気象と企業の備え
2025/07/11
はじめに
近年、日本各地で異常気象による災害が相次いでいます。豪雨による河川の氾濫、台風の大型化、観測史上最高を記録する猛暑など、これまでにない気象現象が私たちの日常を脅かしています。これらの異常気象は個人だけでなく、企業活動にも大きな影響を与えます。業務の中断、物流の遅延、従業員の安全確保、さらには企業の信頼低下といった深刻なリスクが潜んでいるのです。
そのため今、企業には「想定外」に備える力が求められています。
今回は、異常気象の現状と企業がとるべき具体的な備えについて解説していきます。
異常気象がもたらす影響
異常気象とは、過去の気象記録と大きく異なる気象現象のことを指します。たとえば近年では:
- 平成30年7月豪雨(2018年)
・平成30年7月豪雨では、西日本を中心に甚大な被害が発生し、死者は263人にのぼりました平成30年7月豪雨に関する記事:wikipedia
・被災地域では鉄道や道路が寸断され、多くの工場や物流が停止するなど、企業活動にも大きな影響が出ています。 - 令和2年7月豪雨(2020年)
・2020年7月豪雨(球磨川流域など)では、熊本県を中心に浸水や土砂災害が発生し、全国で死者78名・行方不明者が少なくとも4名確認されました 。2020年7月豪雨に関する記事:wikipedia
・浸水により工場や施設が停止し、従業員の出勤が困難となる事例が広く報告されました 。 - 記録的猛暑(2023年)
2023年5〜9月の期間で、消防庁の発表によると91,467人が熱中症で救急搬送され、そのうち「仕事場」(道路工事現場、工場、作業所など)で搬送された人は約9,324人(全体の10%)に上りました。
総務省報道資料より
企業にとってのリスクとは?
異常気象が企業にもたらす影響は、単なる「一時的な被害」にとどまりません。長期的に見ても、事業の継続や企業価値に深刻な影響を与える可能性があります。
◆ 人的被害のリスク
たとえば、集中豪雨の影響で通勤中の従業員が立ち往生したり、熱中症で倒れてしまったりするケースは、実際に多く報告されています。とくに屋外作業の多い業種では、暑さによる体調不良や安全上の事故が日常的なリスクになっています。従業員の安全は企業の責任でもあり、その対策が不十分であった場合には、労働災害としての対応や信頼低下につながる恐れがあります。
◆ 物的損害
工場やオフィス、倉庫などの施設が台風や浸水によって損壊すると、修繕や再開に時間と費用がかかります。たとえば、ある中小企業では、地下の電気設備が浸水し、完全復旧までに2週間を要し、3000万円以上の損害が発生したという報告があります。
◆ サプライチェーンへの影響
原材料の納品が遅れたり、配送業者が一時的に稼働できなくなったりすることで、製品の出荷ができず顧客への納期に遅れが出ることもあります。こうした遅延が続けば、取引先との信頼関係が揺らぎ、長期的な契約見直しにつながる場合もあるのです。◆ BCP(事業継続計画)不備による損失
異常気象によって業務が停止しても、あらかじめ計画を立てていなければ、再開の目処すら立ちません。復旧に時間がかかり、顧客離れや経済的損失が拡大する可能性があります。企業が今できる備え
異常気象に対して、企業が事前に準備できることは数多くあります。特別な技術や多額の投資を必要とせず、日常的な取り組みの中で少しずつ進めることが大切です。ハード面の整備
◎ 建物の耐災害性を高める
- 工場やオフィスの玄関・窓に防水板を設置
- 浸水の可能性があるエリアでは、重要な設備を2階以上に配置
- ガラス飛散防止フィルムや屋根の補強なども有効です
◎ 非常用電源・通信手段の確保
- 停電時に備えてポータブル電源や発電機を設置
- 衛星電話やバックアップのネット回線を確保しておけば、緊急時も連絡が可能
◎ 備蓄品の整備
- 食料、水、防災グッズ(懐中電灯、モバイルバッテリー、救急セット)などは、最低でも3日分
- 従業員数や立地に応じて内容を見直し、定期的に賞味期限や使用状況を確認する習慣も大切です
ソフト面の整備
◎ BCPの見直しと訓練
- 業務が止まったとき、どの業務を優先的に動かすべきかを決めておく
- 代替オフィスやテレワークの導入、取引先への早期連絡手順もマニュアル化
- 訓練は最低年1回以上、従業員全員が参加する形で実施しましょう
◎ 安否確認システムの導入
- 連絡手段が一つに限られていると、災害時に機能しなくなる可能性があります
- メール、専用アプリ、SNSなど複数の方法を用意しておくことが望ましいです
◎ 情報共有の文化をつくる
- 異常気象に関する知識や備えについて、日常的に共有できるよう、社内掲示板や朝礼などで周知
- 「他人ごと」ではなく、「自分たちの身近なリスク」として捉える意識づけがカギです
企業と地域社会・取引先との連携
企業単体の備えではカバーしきれないリスクもあるため、外部との連携も非常に重要です。◆ 自治体との協力体制
- 自社が所在する地域の防災マップや避難所を確認し、必要であれば企業専用の避難計画を自治体と相談
- 災害協定を締結することで、物資の融通や支援体制がスムーズになります
◆ 近隣企業との連携
- 複数の企業が近隣にある工業団地などでは、合同の避難訓練や備蓄品の共同購入などが可能
- 災害時に相互の状況を把握し、助け合う体制があるかないかで復旧のスピードが変わります
◆ サプライヤーとの共有と代替案の確認
- メインの仕入れ先が被災した場合、代替の供給ルートを確保できるかを事前に確認
- 契約書の中に「緊急時の代替対応」や「優先供給条件」などを盛り込んでおくと安心です
異常気象対策とSDGsのつながり
企業が異常気象に備えることは、単に防災やリスク管理という視点にとどまりません。それは、持続可能な社会の構築という大きな目標=SDGs(持続可能な開発目標)への貢献にも直結します。◆ SDGs目標13「気候変動に具体的な対策を」
異常気象の多発は、地球温暖化に起因する気候変動の一現象です。企業が災害への備えを強化することは、結果的に環境への関心や行動を高めることにもつながります。また、電力消費の見直しや再生可能エネルギーの導入、排出ガスの削減といった環境配慮型の取り組みは、直接的にこの目標達成に寄与します。
◆ ESG経営・投資評価にも関係
最近では、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)に配慮した経営が「ESG投資」の評価基準とされています。防災意識の高い企業は、投資家や取引先からの信頼が高まり、パートナーシップの強化にもつながります。
まとめ
異常気象は、もはや「まれな出来事」ではなく、「いつでも起こりうる現実」です。企業はこれを単なる自然災害ではなく、経営上の重要課題と捉え、自社のリスクマネジメントに真剣に取り組む必要があります。
リスクに対して“備える姿勢”は、企業の信頼、ブランド価値、そして従業員や地域社会とのつながりを守る大切な力になります。
まずは、自社の施設や業務の中で「何が止まったら困るか?」「どこに弱点があるか?」を洗い出すことから始めてみましょう。そこから、BCPの見直し、防災訓練、備蓄の充実、ITの活用など、ひとつずつ取り組みを積み重ねていくことが、持続可能な企業づくりにつながります。
そして、企業が自らの行動でSDGsや脱炭素、地域社会との協力を意識することで、「社会に信頼される存在」としての力も高まっていきます。
異常気象に負けない企業へ
今、できることから、しっかりと備えを始めましょう。