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COP30閉幕 

2025/12/17

はじめに:パリ協定から10年、分岐点となったベレン会議

2025年11月、ブラジル・ベレンで開催されたCOP30(第30回気候変動枠組条約締約国会議)が閉幕しました。パリ協定の採択からちょうど10年。「実行の10年」の折り返し地点であり、かつてないほど「自然(Nature)」と「資金(Finance)」に注目が集まった会議となりました。

今回のCOP30は、通称「森林のCOP」とも呼ばれ、気候変動対策と生物多様性保全の統合が主要テーマとなりました。しかし、その一方で、COP28(ドバイ)で合意された「化石燃料からの脱却」の具体的なロードマップ策定においては、各国の利害が対立し、課題を残す結果となりました。

本記事では、COP30の決定事項を整理し、新たな国別削減目標「NDC 3.0」時代において、企業経営がどのような舵取りを迫られるのかを解説します。

 

1. COP30の主要な決定事項と成果

「脱化石燃料」への道のりは険しく

最大の焦点であった「化石燃料からの脱却」に向けた具体的な行程表(ロードマップ)については、産油国や一部途上国の強い反発もあり、全会一致での明確な合意文書への記載は見送られました。しかし、「エネルギー効率の改善」や「持続可能な燃料(SAF等)の利用促進」については前進が見られ、実質的な脱炭素シフトは止まらないという市場へのメッセージは維持されています。

「NDC 3.0」と日本の目標引き上げ

COP30は、各国が2035年に向けた新たな温室効果ガス削減目標(NDC 3.0)を持ち寄る期限でした。 注目すべきは、日本政府が提出した「2013年度比60%削減(2035年度)」という目標です。従来の延長線上の努力では達成困難なこの数値は、国内産業界に対して、これまでの「低炭素」レベルではない、抜本的なエネルギー転換とビジネスモデルの変革を要求するものです。

「ネイチャーポジティブ」が気候変動対策の主役に

開催地がアマゾンであったことから、「森林破壊の阻止」と「自然由来の解決策(NbS)」がかつてない比重で議論されました。気候変動リスクと自然資本リスクは不可分であるという認識が国際標準となり、企業は今後、炭素(CO2)だけでなく、自然(水・土壌・生物多様性)へのインパクト開示を強く求められることになります。

 

2. 経営者が意識すべき3つの「ゲームチェンジ」

COP30を経て、企業の競争ルールは明確に変化しました。経営戦略に組み込むべき3つのポイントを挙げます。

①「適応(Adaptation)」ビジネスの本格化

これまでは排出を減らす「緩和」が中心でしたが、COP30では気候変動の被害に対する「適応」への資金支援が大きく取り上げられました。 これは企業にとって、自社の防災・BCP(事業継続計画)強化だけでなく、「気候変動に適応するためのソリューション」が巨大な市場になることを意味します。
  • 具体例: 耐熱性のある農業品種の開発、水害リスク管理システム、感染症対策、省エネかつ高耐久なインフラ技術など。

② TNFD(自然関連財務情報開示)とサプライチェーン

「森林のCOP」の影響により、TNFDに基づく情報開示の圧力が加速します。特に欧州の「森林破壊防止規則(EUDR)」との連動性が高まり、サプライチェーン上流で森林破壊に関与していないことの証明(トレーサビリティ)が、取引条件(ライセンス・トゥ・オペレート)になります。 「脱炭素」だけでなく「自然と共生しているか」が、資金調達コストや企業価値に直結するフェーズに入りました。

③ スコープ3への削減圧力の激化

日本のNDC「60%削減」達成のため、大企業を中心にサプライヤーへの削減要請がさらに強まります。COP30では、中小企業を含むサプライチェーン全体での排出量可視化と削減支援(エンゲージメント)の重要性が再確認されました。 「自社は排出が少ない」という言い訳は通用せず、取引先から選ばれ続けるためには、製品単位でのカーボンフットプリント(CFP)の提示が必須要件となっていくでしょう。

 

3. 2026年に向けて企業が打つべき手

COP30は「目標設定(Pledge)」の時代を終わらせ、「実装(Implementation)」の時代を決定づけました。
  1. 脱炭素ロードマップの「2035年基準」への改定
    • 2030年目標の達成見込みを確認しつつ、さらに高いハードルである2035年に向けたバックキャスティング(逆算)による投資計画の見直しが必要です。
  2. 「炭素」と「自然」の統合的開示
    • TCFD(気候)とTNFD(自然)を別々に扱うのではなく、統合的なサステナビリティ戦略としてステークホルダーに語るストーリーを構築してください。
  3. エネルギー調達の再点検
    • 化石燃料価格の変動リスクと、カーボンプライシング(炭素税など)の導入を見据え、再エネ比率の向上やPPA(電力購入契約)の活用を加速させる必要があります。
 

おわりに:グローバルサウスとの共創が鍵になる

COP30は、華々しい「全会一致の歴史的合意」という形では幕を閉じなかったかもしれません。しかし、ビジネスの現場においては「後戻りできない変革」のシグナルが明確に灯されました。

また、今回の開催地がブラジルであったことは、グローバルサウス(新興・途上国)の発言力増大と市場としての重要性を象徴しています。これからの脱炭素ビジネスは、もはや先進国だけの論理では動きません。日本企業が再び世界でのプレゼンスを高めるためには、現地の課題に寄り添い、新興国の成長を取り込みながら共に課題解決を図る「共創」の姿勢が不可欠です。

気候変動対策は、もはや「コスト」や「CSR」ではなく、企業の生存戦略そのものです。NDC 3.0という新たな基準線を前に、変化を恐れず、むしろこの波を乗りこなすような経営判断が求められています。いち早くビジネスモデルを変革できた企業こそが、次の10年の覇者となるでしょう。
(環境省:https://ondankataisaku.env.go.jp/carbon_neutral/topics/
(ジェトロ:https://www.jetro.go.jp/biznews/

 

編集後記

本記事では、あえて「危機感」だけでなく「機会(オポチュニティ)」に焦点を当てました。特に「適応ビジネス」と「ネイチャーポジティブ」は、日本企業が持つ技術力(水処理、防災、素材など)が世界で高く評価される領域です。

現地ブラジルでの熱気は、単なる環境保護活動の枠を超え、新しい産業革命への期待感に満ちていました。経営者の皆様においては、この世界の潮流と「熱」をいかに社内へ伝播させるかも重要なミッションとなります。

単なる数値目標の管理(やらされ仕事)にするのではなく、「なぜわが社がやるのか」というパーパス(存在意義)を社員と共有し、組織全体の熱量を高めていくこと。それが、難易度の高い2035年目標達成への最短ルートになるはずです。COP30を機に、貴社の強みを再定義するきっかけとなれば幸いです。

 

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